鉄鋼3社 大型電炉で狙う脱炭素​

産業界で最も多くの二酸化炭素(CO2)を排出する代表格は高炉を利用する鉄鋼3社である。脱炭素が世界の潮流となっている中、鉄鋼3社が生き残るには製鉄プロセスにおける脱炭素化は避けて通れない重要課題だ。

高炉による製鉄が主体の鉄鋼3社は、水素を使った直接還元に加え、高炉から電炉への転換といった製鉄プロセスそのものの変革も迫られている。

現在、主に高炉で造っている自動車向けの高級鋼などを電炉でも造れるようにするには、従来の電炉の数倍の能力を持つ大型電炉を開発する必要があり、鉄鋼3社は、そのための技術開発に力を注いでいる。そこで今回は製鉄プロセスで重要な役割を果たす炉の技術について各社の技術競争力を見てみよう。

鉄鋼3社では、日本製鉄が首位、これに続いてJFEホールディングス、神戸製鋼所、という順になっている。特に日本製鉄は、2019年の非連続的なYK値(技術競争力)の上昇がそれまでの漸減傾向を修正しているように見受けられる。​

鉄鋼3社ともに脱炭素は生き残りをかけて取り組まなければならない課題であるが、特に日本製鉄がUSスチールを買収しようとしていることは、この課題と無関係とはいえない。​

USスチールは2021年に電炉のBig River Steelを完全子会社化している。これにより、今回の買収が実現すれば日本製鉄は高炉設備のみならず、Big River Steelの電炉技術も入手することができる。Big River Steelは、2014年に設立されたスタートアップ企業であるが、​

(1)最新鋭の電炉設備を所有し世界でトップクラスの生産性を有している​

(2)アーカンソー州にある電炉工場は世界で唯一LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)認証(※)を受けている​

といった特徴を持っており、日本製鉄としてもこの技術に高い関心があるものと推測される。​

(※LEED認証とは非営利団体のU.S. Green Building Councilが認証審査を行う環境性能評価システムであり、いかに環境に優しいか、を示す認証指標)​

それでは、鉄鋼3社に限定せずに炉に関する技術競争の世界をマップ(YKS Map)で見てみよう。赤色矢印は特許に対する攻撃を、緑矢印は共同出願関係を表す。

炉の技術に関しては日本製鉄が首位であるが、2位に黒崎播磨がつけている。黒崎播磨は日本製鉄の連結子会社で耐火物事業を中心とする企業であり、高炉、転炉などの代表的な製鉄設備や電炉などでも重要な製品を提供している。このマップ中では品川リフラクトリーズも同業である。

このように、耐火物の技術も炉の技術として重要であることが分かる。脱炭素を目指す鉄鋼業界では今後技術競争がますます激しくなることが予想される。この業界も継続的に観察してゆきたい。​